さて、まずは『はるかなる故郷』のサーミ語部分を解説致します。
『はるかなる故郷』は、比較的簡単なサーミ語で書かれており、
出てくる単語もほとんど語彙集にあるものなので、結構さくさく読めてしまします。
この歌の場合、第2、4、6連がサーミ語で書かれています。
*第2連*
(本文) |
Boade ruoktot alot go don dovdat tuski |
(読み方) |
ボァデ ルォクトッ アロット コ トン トヴタッ トゥスキ |
(単語) |
boade |
動詞 boahtit 『来る』 命令法二人称単数(「来なさい」) |
ruoktot |
副詞 『家へ』 |
alot |
副詞 『いつも』 |
go |
接続詞 『〜の時』(英語のwhen) |
don |
人称代名詞二人称単数主格 『あなた』 |
dovdat |
動詞 dovdat 『感じる』 直説法二人称現在 |
tuski |
語彙集にない単語 『悲しい』または『辛い』かと推測される(※1)。 |
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(直訳) |
『君がtuski(悲しい/辛い)と感じた時はいつでも帰って来なさい』 |
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(本文) |
Boade ruoktot alot go don dovtat vaivvi |
(読み方) |
ボァデ ルォクトッ アロット コ トン トヴタッ ヴァイッヴィ |
(単語) |
vaivvi |
単語集にない単語 『悲しい』または『辛い』と推測される(※1) |
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(直訳) |
『君がvaivvi(悲しい/辛い)と感じた時はいつでも帰って来なさい』 |
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(本文) |
Du ruoktu vuorda du alot |
(読み方) |
トゥ ルォクトゥ ヴォルダ トゥ アロット |
(単語) |
du |
donの属格 『あなたの』 |
ruoktu |
名詞『家』 単数主格 |
vuorda |
動詞 vuordit 『待つ』 三人称現在 |
du |
donの対格 『あなたを』 |
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(直訳) |
『君の家はいつも君を待つ』 |
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(本文) |
Du ruoktot vuorda du alot |
(直訳) |
(同上) |
*第4連*
(本文) |
Bearas, ustibat, ruoktu, muitut |
(読み方) |
ベアラシュ、ウスティバト、ルォクトゥ、ムイトゥト |
(単語) |
bearas |
名詞 『家族』単数主格 |
ustibat |
名詞 ustit 『友人』複数主格 |
muitut |
名詞 muitu『記憶』『思い出』 複数主格 |
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(直訳) |
『家族、友達、家、思い出』 |
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(本文) |
dat eai goassige vajalduhta du |
(読み方) |
タート エアイ コアッシケ ヴァィヤルトゥフタ トゥ |
(単語) |
dat |
指示代名詞『それら』主格 |
eai |
否定動詞 it 三人称現在複数 (『〜をしない』) |
goassige |
副詞 『決して』 (否定を強めるための言葉) |
vajalduhta |
動詞 vajalduhttit 語幹 |
du |
donの対格 |
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(直訳) |
『それらは決してあなたを忘れることをしない』 |
*第6連*
(本文) |
Meahcci, cacit, albmi, eana |
(読み方) |
メアッハツィ,チャーツィト、アルプミ、エアナ |
(単語) |
meahcci |
名詞『原野』単数主格(※2) |
cacit |
語彙集にない単語。名詞『水』 cahci の複数主格 cazit か?(※3) |
albmi |
名詞『空』単数主格 |
eana |
名詞『大地』単数主格 |
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(直訳) |
『原野、水、空、大地』 |
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(本文) |
dat buot vurdet du |
(読み方) |
タート プォト ヴルデト トゥ |
(単語) |
buot |
副詞 『全て』 |
vurdet |
vuordet(待つ)の書き誤りと考えられる。 |
du |
donの対格 |
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(直訳) |
『それらはみんなあなたを待つ』 |
(※1) |
tuski 及び vaivvi について
これらの単語は、CDの訳では1・2行目をまとめて『辛い時、悲しい時』とあることから、 それぞれが『辛い』『悲しい』のいずれかの意味であることが推測できます。 ここで、vaivviに関して、よく似た単語で vaibbi (動詞vaibat 『疲れる』現在分詞の主格)というものがあり、 これが方言でbのかわりにvと発音するのではないかという憶測のもとにこれを『疲れる』=『辛い』と考えると、 tuskiは『悲しい』という意味である可能性が高いと考えられます。 |
(※2) |
これはCDでは『森』と訳されているが語彙集には『原野』とあります。 おそらく、サーミ語が話されている北極圏の気候を考えると、 原野すなわち人の手の入っていない土地は、必然的に針葉樹林であると考えられるため、 その点でCDの訳と矛盾しないと考えます。 |
(※3) |
サーミ語ではcとzは同じ音を表すので、序文に書いた正書法の混乱が生じていると考えられます。 なおCDでは『小川』と訳されていますが、『水』の複数形で『川』という意味になるのではないかと考えられます。 |
これを綺麗に繋げるとCDの訳ができるようです。