はじめに
ファイナルファンタジー5のアレンジアルバム『Dear Friends』はファンの多い名盤です。
このCDに収録された『はるかなる故郷』の歌詞の一部及び
『大森林の伝説』において朗読される詩には、
サーミ語と言うきわめてマイナーな言語が使われています。
しかし、コアなファンなら、歌われている言葉を原語で理解できたら、と思うのが人情。
そこでかつて『Libeli Fatali』ファンの為のラテン語歌詞解説を書いた私が、
『Dear Friends』ファンのために今度はサーミ語歌詞の解説を執筆致しました。
サーミ語について
サーミ語と言うのは、スカンジナビア半島北部からコラ半島にかけて分布する
サーミ人(ラップ人)の言語です。
サーミ人はかつて主にトナカイの遊牧で生計を立てる民族でしたが、
現在では遊牧を続けている人々は少数で、定住してサラリーマンなどの職につき、
近代的な都市生活を送っている人がほとんどだそうです。
サーミ語は地域ごとの方言の差が激しく、
相互に意思疎通を図れない8のグループに分かれており、
このCDに出てくるのはその内の「北サーミ語」と言う一番大きなグループの物です。
サーミ語の学習・翻訳にあたって〜筆者の苦労話、及び愚痴、言い訳(爆)
私は今回この解説を書くべく1からサーミ語を独学で勉強しました。
教科書としては、
『サーミ語の基礎』、吉田欣吾著、大学書林、1996年、をメインに用い、
『ラップ語入門』、小泉保著、大学書林、1992年、を補足的に参照しました。
これを機会に自分もやってみようという方のためにアドヴァイスさせていただきますと、
両者とも書き方に一長一短
(前者は詳しいがばらばらに書かれていて全体像を掴みにくい。
後者は簡潔にまとまっており全体像を掴みやすいが簡潔過ぎる場合がある。)
があるため、とりあえず両方そろえて分かりやすい方を読む、と言うのが良いかと思います。
サーミ語は、ラテン語に比べて著しくマイナー度が高い言語であるため、
今回この解説を書くにあったっては色々と難点がありました。
最大の問題は、日本語ないし私に読める外国語で書かれたサーミ語の辞書がないことです。
以前、新聞の広告で「サーミ語大辞典」なる書物を見た記憶があると
掲示版にも書き込んだことがありましたが、
いざ図書館で検索してみるとそのような書物は存在せず、
おかしいと思って新聞の縮刷判で探してみたところ、
私が『サーミ語大辞典』の広告だと思っていたものは
実は前掲の『サーミ語の基礎』の広告だったことが判明しました。
そして、『ラップ語の基礎』の参考書一覧を見てみると、
北サーミ語の辞書はノルウェイ語・スウェーデン語・フィンランド語・ロシア語の物しかなく、
日本語はおろか英語やドイツ語で書かれたものすらないのだそうなのです。
ラテン語で書かれた物がないのは当然ですが(苦笑)。
そのため、単語を調べるソースは、上記2冊の教科書の巻末の語彙集のみで、
そこに載っていない単語についてはCDの日本語訳を参考に
推測せざるを得なかったことを申し上げておきます。
次にサーミ語と言う言語それ自体が抱える問題があります。
前述の通りサーミ語は8つのグループに分かれているのですが、
さらに同一グループの中でさえかなり方言の差が激しいそうです。
また、サーミ人は独自の文字を持つことはなかったため、
サーミ語はアルファベットを用いて表記しますが、
その表記の規則(「正書法」と言います)は長い間国ごとにばらばらで、
現行の統一されたサーミ語正書法が施行されたのが1979年の為、
それ以前に教育を受けた人達は教科書と異なるつづり方で文書を書くそうです。
CDの歌詞カードに書かれた手書きのテキストを書いた
アンゲリン・テュトットのメンバー(おそらくウッラかと思われます)は
いずれも‘70年前後の生まれで、読み書きを習ったのは
丁度現行正書法に移行する過渡期だったと思われます。
そのため、おおむね現行正書法が用いられているものの、
古い正書法に従った部分も含まれていると思われます。
方言については当然出身地の方言を用いて書いていると思われます。
以上のような特性から、CDの歌詞カードに書かれた手書きのテキストには、
教科書通りには行かない部分が含まれており、
そこは推測で補わざるを得なかったことを申し上げておきます。
私の解説が現在の私には解決できない
以上のような問題点を含んだものであることについては
予め御了承下さい。
アルファベットの読み方について
サーミ語の読み方は非常に複雑です。英語にないアルファベットも7つありますし、英語と違う読み方をするものもあります。たとえばdは濁らずにタ行で読む、など。一応カタカナで本文の読み方を書いておきますが、詳しく知りたい方のために巻末に文法用語の解説の後にアルファベットの読み方の解説を書いておきます。 |