田中氏に「FFシリーズの音楽に関してコメントがいただきたい」とお願いしたところ、
「いっそのこと、植松さんとの対談にしない?」とのご提案。植松さんにも快く
OKをいただいて、ここに夢の対談が実現した。
「植松さんの曲ってメロディーが立ってるよね」(田中氏)
田中氏:実はね、植松さんにお会いするのは初めてだけど、仕事をお願いしたことがあるんですよ。
植松氏:ええと、「宇宙英雄物語」ですよね?
田中氏:そう。ちょうどFF6で忙しいということで断られたんだけど。僕、意外とゲーマーなんですよ。ずっと植松さん作品を聴いていて、メロディーが立ってて、歌に向いてるな、と思ってたのね。
植松氏:僕は別に音楽の教育を受けたわけじゃなくて、子供の頃聴いたヒットチャートがベースだと思うんです。まあ、ゲームはインストが基本ですけど、もし自由にやっていいなら、歌ものとかやりたい気持ちはありますね。でもね、RPGの音楽作ってる人ってオーケストレーションのできる方が多いから、ちょっとコンプレックスはありますけどね(笑)。
田中氏:そんなの関係ないよ。だってゲームではポリフォニックで24音しか使えないから、どんなすごいオーケストラを連れてきてもしょうがないんだもん。
植松氏:でも、田中さんはクラシックを勉強されたんですよね?聴いてたのも・・・。
田中氏:いや、クラシック聴きながらも歌謡曲聴いてましたけど。南沙織とか。尾崎紀世彦の追っかけみたいなこともしてましたもん。でもルーツは三橋美智也かもしれない。そういう子供の頃に聴いたヒットソングが自分の中に強く残っているから、メロディーがない曲ってイヤなんだよね。
植松氏:そうですか。僕自身も、例えば映画音楽聴く時はメロディーのあるものが好きです。逆にね、ガッチリ構成されているメロディーのない曲に出会うと、「どうやってこんなの作ればいいんだろう。わかんないなあ」と思っちゃいますね。
田中氏:そりゃ気にしちゃだめでしょ。だって、そういう曲を書く人はきっと「歌謡曲を書いてくれ」っていっても、書けないんだから。同じ土俵で勝負する必要ないですよ。
植松氏:確かにそうだなあ。なんか今の言葉で、すごく気が楽になりましたよ。まあ、最近はだんだん勉強して音楽の構成スタイルを変えるより、今のままのほうがいいかな、と思うようになってきたし。
田中氏:植松さんはどうして音楽を始めたんですか?
植松氏:僕の姉がピアノを習っていて、その影響です。
田中氏:植松さんのエッセイを拝読したんですが、「僕の音楽は無節操だ」って書かれていましたね。「その通りだ」って。うまいこというなあと思いました。というか、音楽の幅が広いというか、音楽に関する柔軟性が高いんだと思うんですよね。
植松氏:そうですね。音楽はなんでも好きだし。
田中氏:それはうらやましいですね。僕は結構好き嫌いがはっきりしてるから。よくこんなにいろんなタイプの曲が作れるな、と関心してます。
植松氏:僕が音楽を聴き始めた1970年代の初めって、日本にいろんなジャンルの音楽が入り始めたでしょ。そのせいじゃないですか。
田中氏:植松さんは、クラシックの勉強とかしなくてよかったんじゃない。クラシックをしっかり勉強してる人って、頭が固くて「ロックなんて音楽じゃない」って認めない傾向があるんです。逆にロックばかりの人は「オペラなんて聴いてられるか」っていう人が多い。
植松氏:その点、僕は今でも無節操だなあ。
田中氏:聴けばわかる(笑)。
「肉声は聞き手の心に訴えかけてくる気がする」(植松氏)
田中氏:FF7の音楽は、本当になんでもアリだもね。
植松氏:自分の中ではFF7というひとつの作品の中にいろんな曲が入ってても、あんまり意外性はないんですけどね。
田中氏:最後のほうでコーラスの入った曲があるでしょ。あれは最初から考えてたの?
植松氏:ええ。確かに、サンンプリングはファミコンやスーファミの時より、PSのほうが音もいいから、ギターとか楽器をきれいな音で鳴らすことは可能ではある。でも自分の中では、ギターの音よりも人の肉声のほうが、聞き手の心に訴えかけてくるような気がするんです。
田中氏:わかるわかる。でも、あの曲ってバックのオーケストラは生録じゃないでしょ。コーラスだけが肉声で。容量が足りないのかな、とか思ったりして。
植松氏:そう。ウチのゲームって絵にデータ量をさいているでしょ。だからあの曲は結構大変だったんですよ。結局、コーラス部分は小節ごとに区切ってサンプリングし、それをつぎはぎしています。
「植松さんのメロディーが好きな理由は
下世話だから(笑)」(田中氏)
田中氏:最近僕が気にしてるのは、他人の曲と似ちゃうこと。やっぱり、「おいしいメロディー」ってどこか似たところがあるじゃないですか。
植松氏:かといっていままで誰も聴いたことないようなメロディーが人の心をつかむか、というと、そうとも言い切れない。そこが難しいですよね。
田中氏:僕がね、植松さんの曲で一番好きなとこは、メロディーが下世話なのね。
植松・田中氏:あはは。
田中氏:すごく日本人のツボを押さえてる気がする。
植松氏:自分が何に一番影響されてるのかな、って考えることがあるんです。ポピュラー音楽だと思ってたけど、自分が一番聴いて感動するもののベースって、文部省唱歌とかね、小さい頃に聴いた童謡なのかもしれないなぁ、と。
田中氏:なるほど。
植松氏:シンプルなコードなんですよね。
田中氏:おいしいメロディーも多いしコードもすごくシンプル。あれをクラシックの人がアレンジしてもっと難しいコード進行に変えても、ちゃんとメロディーになるからすごい。ベートーベンの「歓喜の歌」も、良い曲だと思うのはシンプルだからですよね。
植松氏:いやぁ、ベートーベンと比べられても困りますけど(笑)。僕自身、作る曲はできるだけシンプルになるように心がけてるんですよ。特に、ここは音楽を目立たせたいな、って時は。
田中氏:ああ、植松さんは空間恐怖症じゃないもんね。結構いるんですよ、余白があると恐くて、何か音入れないと気が済まない作曲家って。
植松氏:そうですかねぇ。自分では空間恐怖症だと思いますけど。特にオケ系の曲。自信がない時はそうなるのかも。
田中氏:でもね、FFの「愛のテーマ」と「エアリスのテーマ」はやっぱり名曲ですよ。
植松氏:ありがとうございます。わりと女の子をテーマにした曲好きなんですよ。
田中氏:先に曲を書いちゃうんですか、それともストーリーの設定ができてから?
植松氏:両方ですね。ウチはみんなシナリオ書くのが遅いから、待ってたら終わらない(笑)。逆に、「こんな曲もあるけど」と提案して、ストーリーに活かしてもらったりもします。その点、ウチはみんな社内にいるからやりやすいです。家内制手工業の強みかもしれません。
田中氏:僕は「サクラ大戦」をやった時に感じたことがあるんだ。広井王子さんが「主題歌を作ろう」っていうから作ってセガの人たちに聴いてもらったのね。それまで言葉とかで「サクラ大戦」の世界観を伝えようと努力してもなかなか伝わらなかったのに、音楽を聴かせたら一発でわかってくれた。音楽が接着剤になって、スタッフをひとつにまとめたんだよね。
植松氏:音楽って人の心に直接訴えてきますから。
田中氏:そう。ある意味では卑怯な芸術(笑)。映像なら、見たくなければいい。でも、音楽って勝手に耳の中に入ってきて聴く気はなくても心に残っちゃったりするんですよね。
「EL&Pの<タルカス>が音楽の道に進むキッカケに」(植松氏)
田中氏:植松さんはどうして音楽の道に進もうと思ったの?
植松氏:エマーソン、レイク&パーマーの<タルカス>に衝撃を受けたんですよ。で、バンドを組んで、チューリップとかビートルズとかコピーしてました。
田中氏:パートは?
植松氏:ピアノですね。見よう見まねで。一応譜面は読めましたよ。ホントは音大に行きたかったけど、親に反対されて、とりあえず神奈川大学へ行きまして。岩崎工さんに音楽理論を教えてもらったり、卒業してからは、フリーで曲を作ってました。それから誘われてスクウェアの仕事を始めたんです。
田中氏:スクウェアでの一番始めの仕事はなんですか?
植松氏:PC-98のソフト「ブラスティー」のおまけソノシートです。それからファミコンの仕事もするようになったんですけど、ファミコンって3音しか入れられないでしょ。大変だな、と思ってたら、すぎやまこういち先生に「1音あればメロディーは作れる」って言われて、もっと驚いた。でも「ドラクエ」の音楽も3音も使ってない部分があるんですよね。
田中氏:そう。すぎやま先生は、ファミコンの3音を駆使して、すごいことしてますからね。わざとベースの音を上に持ってきたりいろんなテクニックを開発してる。
植松氏:そうなんですよ。今でもドラクエの音楽を聴くと、やっぱりすごいと驚きますね。
田中氏:そう。最近のゲームって音楽がすごく豪華だけど、ホントはあのファミコン時代の音楽でいいんじゃないか、と思うことがありますね。「スーパーマリオブラザーズ」なんて、今聴いてもやっぱりすごいもの。
植松氏:うーん、あれは名作ですよねぇ。任天堂の近藤さんって方ですよね、作ったのは。
田中氏:そう。今でもあれはゲーム音楽のナンバー1じゃないのかな、植松さんの前で失礼かもしれないけど。で、2番はドラクエかな。
植松氏:近藤さんにはもっと仕事してもらいたいですよね。あんなにいい曲が作れるのに。
田中氏:でもさ、植松さんももっと外部の仕事したら、なんて言ったらスクウェアさんに怒られるかな(笑)。才能あるのにもったいないよ。
植松氏:やりたいなあとは思うんですけどね。実は趣味で、ゲーム音楽を作っている人たちでオムニバスのCDを作ったことがあるんですよ。インディーズですけど。それが結構デキがよくて面白かったんで、またやれたらいいな、と思っているんですよ。
田中氏:それ、僕も入れて。
植松氏:そう。田中さんとかすぎやま先生とか、ゲーム音楽で有名な方っていっぱいいらっしゃるでしょ。お願いしたいのはやまやまですけど、あまりにも遊び半分過ぎるので、失礼かな、と思って。
田中氏:いやそんなことはない。気にしないで呼んでよ(笑)。
植松氏:じゃあ、次回やる時はぜひお願いします。 |