記事・トーク
05. Vジャンプ 3月10日号増刊
「FINAL FANTASY8 スペシャルトーク」より
「新しい事に挑戦したいという思いはつねにある」

PSをステージに移したことで、FFにおけるゲーム音楽の可能性は大幅に
広がった。新しい試み、葛藤、そして喜び・・・植松氏の話は尽きない。


今回は「FF7」と比べて曲の数そのものは少なくなっているかな。
でも、これまで以上になんか頑張ってるし、仕事も充実してるし、
これくらいのペースでやっていたら、だいたいもう終わってていい疲れ具合なんですけれど、
まだ終わっていない(笑)。
ようやく「FF8」の作業も大づめといったところです。
ハードがSFCからPSにうつって2作目なので、ノウハウがわかった部分もある
んですが、逆に上限が見えないので、どこまでやればよいのか、
どこをめざせばよいのかというのが問題になってくるんです。
そりゃあ、やればやるほど良い物が作れるでしょうけれど、これって
締切があって、売ってナンボの世界ですから(笑)。
それでもやっぱり前の作品を越えたいと思うじゃないですか。
新しいことに挑戦してみたいという気持ちもあるし。
ひとつ前の作品でやれなかったことを実験してみようという考えは、つねにあります。
そういうこともあって、今回はFFシリーズで、初めてゲーム中に歌を入れました。
「7」の時にも、エンディングに歌入れたいっていう意見はあったんです。
でも僕は、オープニングやエンディングに歌が入ってるのは、個人的には
違和感があってあんまり好きじゃなかったんですよ。
だからその意見はパスしていたんです。
でも今回ゲーム中で、シナリオがらみの重要な歌がありまして。
歌詞もシナリオにからんだものだったんですね。
だったらいいかなと思ったので、今回は歌を入れることにしました。
それでまず、何語でいくのかというところから始めたんですが・・・、
最終的には英語でやったんですけれど、僕はいまだに日本語で
よかったかもしれないと思っています。
ただ日本語で歌った場合、ファンタジーの世界に日本語みたいな身近な
ものがゲーム中から流れてきたら、具体的すぎて
現実に引き戻されちゃうんじゃないかと思ったんですよ。
まあどうせアメリカやヨーロッパでも発売するだろうし、
だったら英語でいいんじゃないかと判断しました。
日本人が英語の歌を聞いたときに感じる違和感よりも、
アメリカ人が日本語の歌を聞く不慣れ感Nほうが、
はるかに大きいだろうと思いまして。
それだったらはじめから英語でやって、ゲーム中に字幕を
付ければいいだろうということになりました。


「みんなが同時に「おっ」となった歌手が、フェイ・ウォンだった」

次に、誰に歌ってもらうか、ということになったんですが、
そんなに知られていなくてもいいから、とにかく声のいい人を探そう
ということで、みんなであの人がいいんじゃない、いや、
この人がいいんじゃないとか言いつつ、CDを何十枚も集めて、1曲ずつ聞いたんです。
それでもなんかこうピンとこない・・・みんなうまいんだけれど、インパクトみたいなものがなくて。
そうこうしているうちに、山積みになっているCDの中から
1枚かけて聞いてみたら、みんなが「おっ・・・これは」ってなった。
それが今回歌ってもらった、フェイ・ウォンという中国人の歌手だったんです。
それまで僕もゼンゼンノーマークで、歌も聞いたことがなかったんですが、
スタッフの一人に熱烈なフェイ・ウォンファンがいたんですよ。
シナリオを書いている野島なんですけれど。
彼は香港までコンサートを見に行くくらいのフリークなんです。
いや、決して彼が、フェイ・ウォンがいいと主張したわけじゃなくて、
彼はたまっていたCDの中に1枚そっと忍ばせていただけだったんですけれどね(笑)。
でもあれだけの人数が集まって聞いていながら、同時に
「おっ」っていうくらいだから、やっぱりこれかなぁと思って。
声自体、魅力ありましたしね。
それで、実際に交渉という話になったんですけれど・・・
僕は知らなかったんですが、すごいスターらしいんですよ。
今アジアでいちばんの女性歌手なんです。
だから本当に彼女は歌ってくれるのか、というのが不安でした。
交渉自体は意外とスムーズにいってスタッフ何人かと香港まで行ったんです。
ところがいろいろとありまして(笑)。・・・まあなかなか貴重な体験でした(笑)。
でも野島なんてホクホクですよ。
もっとも、野島以外の社内のみんなにもすごく評判がいいんです。
初めての歌どりはいろいろありましたけれど、
一緒に仕事をやっている仲間にいいって言われたら、それが一番嬉しいですよね。
初めてということで言えば、生録自体が今回初めてなんですよ。
今まではすべて内臓音源でやっていたんですが、
今回オープニングもエンディングも、オーケストラでやっています。
生録は楽しいですよ。
オープニングのラテン語のコーラス曲なんかは、
今回の曲の中で、自分でもいちばんと言っていいほど気に入ってます。
完全にオリジナルのラテン語の歌を作るのも、これが初めてだったし。
「7」のラストバトルで、セフィロスと戦っているときに流れている歌、
あそこで使ったのがラテン語だったんですが、あれには元ネタがあるんです。
「カルミナ・ブラーナ」というオペラなんですけれど、
その詩の中からセフィロスに使えそうな単語をピックアップして作ったんです。
で、これ元ネタわかるヤツなんていないだろうなと思っていたんです。
ところが、(FF7の)発売の次の日にはもう、ネット上で
「元ネタはカルミナ・ブラーナですね」って(笑)。
こりゃあ、すごいヤツがいるもんだなあと思いました。
ゲームやっている人の中に、やっぱりオペラ聞いている人もいるんだなって。
で、見やぶられるくらいならオリジナルで勝負しようと思ったんです。
そこで、野島の書いた詞をラテン語に訳してもらおうと思ったんですが、
ラテン語ができる人がいない。
そもそも日本人でちゃんとラテン語のわかる人ってすごく少ないらしいんです。
しょうがないからインターネットでさがしまくって・・・。
そうしたら、京都にいらっしゃったんですよ。ラテン語の専門家が。
すぐにその人に「自分はゲームの音楽を作っている者ですが
この歌詞をラテン語に翻訳してほしいのです」とメールを出して、
次の日にはもうさっそく京都に行って(笑)。
自分が京都まで行って頼んだと言うこともあって、
オープニングのコーラス曲は印象深いですね。
実際ラテン語とオーケストラを合わせたときの・・・
荘厳感みたいなものは、自分が思った以上でしたから。


「ハリウッドのスタッフが作った効果音には奥行きがあるんです」

その他新しい試みは、効果音をハリウッドでとったことですね。
映画の効果音を作っている人たちと仕事をしたんですけれど、
やっぱりすごいですよ。彼らは。
爆発音ひとつにしても、その爆発は画面のどこらへんで起きているのか
どれくらいの音量で作るべきで、どのように響くのか、
というところまで計算して作っていますから。
それに今回の効果音って奥行きがあるんです。
どういうマジックかは僕にもわからないし、おそらくエンジニアに
聞いても教えてくれないとは思うんですが、
すごく不思議な響き方をしているんですよ。
そういうノウハウをもった人がうちにもいたら、
わざわざハリウッドに行かなくてもいいんですけれど。
音楽の製作費の大半は効果音ですからね。今回。
それくらいお金がかかってますよ、「8」の効果音には。
まあ、歌とりに香港まで行って、効果音をハリウッドでとって、
オーケストラの生録やって・・・すごく恵まれていると思いますよ。
もっとも恵まれているからといって甘えている気はないし、
なんか良い子ぶって他のメーカーさんに足なみそろえる必要もないと思っています。
だから会社が金出してくれるんだったら、どこまで暴れられるのか、
おもいっきり暴れてみようと思います。
基本的に「ファイナルファンタジー」ってそういうスタンスですし。
でも僕らがこういうことをやっていれば、他のメーカーさんなんかに
とっても、いい見本になるじゃないですか。
あそこがあんなことやって失敗したから、あれはやっちゃだめなんだ、という風に。
ただね、これは誰かがどこかで必ずやらなきゃならないんですよ。
任天堂さんでもセガさんでも、誰でもいいんです。
僕らなんかがやらなかったとしても、巨額の金を投じて
ハリウッドに効果音をとりにいって、生録やってというのは、
絶対誰かがやっているはずなんですよ。
それを幸か不幸か、今は僕らがやっているだけで。
幸か不幸かわからないですけれどね。実際(笑)。
ただそういう役割に今の僕らがいるんだったら、徹底的にやってみようと、そう思っているんです。
ま、金かけられるうちにやっておかないと、次どうなるかわからないですから(笑)。
だからこれからもどんどん新しいことにチャレンジしていきたいですね。
---1999/03/10号増刊 Vジャンプより抜粋
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